後藤治+オフィスビル総合研究所『都市の記憶を失う前に』白揚社新書

白揚社新書『都市の記憶を失う前に』後藤治+オフィスビル総合研究所

日本における多くの歴史的建築物はとても厳しい状況にあります。後藤は本書の中でその理由に関して、(1)国土の高度・効率的利用、(2)防災・安全への対策の課題を掲げ、歴史的建築物保全への具体的処方箋を論じています。

上記2つの公共性は、近代の日本、戦後とくに都市部の人口密度の高さの解消を目的に設定されたものです。人口減少時代を迎えた現在も尚、木造の低層建物× 鉄・コンクリートによる中高層建物○その大きな方向性は変わっておらず、そのための補助金の支給や低利融資等の公的資金の導入、税制優遇等の措置など各種事業が広く存在しています。

都市の記憶は、減価しない。むしろ、増価する。

その過程の中で、歴史的建築物をより柔軟に継ぐことのできるような法体系、ルールの設計と自然な実践な営みをつくりだす運動のデザインはどのようなものでしょうか。

野口裕之「木の現在」

日本の伝統建築工法は西欧建築工法とは全く異なる体系を有しています。

日本の伝統建築工法は西欧建築工法の〈掘って埋めて立てる構造〉ではなく、〈造って置く〉構造であり、それは強度よりも釣り合いに主眼を措き、その釣り合いを求めて〈貫構造〉や釘を用いぬ〈木組み法〉などの知恵が結集された。

しかしながら、我が国における建築に関する制度体系は、西欧建築工法をベースとして成り立っており、日本の伝統建築工法に関しては、多くの実証研究がなされつつも、制度的な確立は十分とは言えません。

日本の伝統建築工法の最大の原理は〈木を生きているものとして扱う〉ことである。

大工は呼吸する木を扱い、南斜面に生えた木は南側に上下誤たなく、使い、製材された木材を一目見て、その背と腹、天と地を見分けることが出来るとされていました。必然的にそこには風土との感応があり、そこには文化が自ずと屹立します。私たちの先達は〈その居心地の佳さ〉を建築に取り入れながら暮らしていました。

建築は文化から生まれ、文化を支え返すものである

私たちの運動の狙いはここにあると考えます。

 

野口裕之「木の現在」「生きることと死ぬことー日本の自壊」の中のひとつのエッセイ

鈴木昌子編『これは教育学ではない 教育詩学探求』2006、冬弓舎